『サイレンズ・イン・ザ・ストリート』
『サイレンズ・イン・ザ・ストリート』
エイドリアン・マッキンティ
訳・武藤陽生
早川文庫
エマ。
夢見るような、アイルランドのフォークソングに出てくる“悲劇的な死を遂げる恋人”のような、人をどぎまぎさせる愛らしさがある。
アイランドマージーという、閉鎖的な町(村?)に住んでいる、寡婦。
雨漏りする家に、一人暮らしている。
子羊が生まれると売って現金を得る。
老いた雌羊を捌く。
浜で貝を拾って、食料にする。
密造酒を作る。
廃屋に隠れて、読書する。
馬に乗って散歩する。
流行に疎い。
両親はスペインに、姉はアメリカに移住している。
そこへ行くお金もないけれど、町を出る気もない。
地域的には多分カソリックの土地に住んでいるけれど、心はケルトの神話を生きている。
ダフィは、そのことに驚く。
私は、ダフィが、神父さんに告解をしたことに驚いたよ。
キリスト教で「ニュー・ボーン」というのは、カソリック(もしくは無神論)→プロテスタントのことなのだろうか。
ダフィは、以前の上司に訊かれる。
君みたいに優秀な人間はスコットランドヤードにもはいれるだろうに、何故北アイルランドを出ないのかと。
「ここに残って、問題解決の力になりたいんです」
でも現実は、そんな願いや努力を裏切る。
「この国のすべてへの憎しみ」に、心が覆われる時もある。
今回の一曲。
もう一杯ウォッカ・ギムレットをつくり、飲み、スープの火を止め、『ブライター・レイター』を全曲リピート再生にセットし、それから気を変えた。ヘロインや酵母ペースト(マーマイト)と同じく、ニック・ドレイクは少量に留めておくのが一番だ。