『アメリカン・スキン』

アメリカン・スキン』

ケン・ブルーウン

鈴木恵 訳

早川文庫

 

アイルランドのゴールウェイで銀行強盗を犯したスティーブが、アメリカに高飛びして、アメリカ人になりきろうとする話し。

描かれるアイルランド人たちが、とても沁みる。

 

 アイルランドには、何百年にもわたる貧困と抑圧と暴力とから生まれた哀悼の言葉がある……

「オホ・オホーン」

 正確に翻訳するのはむずかしいが、悲しみはおれだ、ぐらいの意味だ。でなければ、くそくらえ、か。

 おれたちアイルランド人は愁いを確実なものにする鍵を持っている。悲しいときほど幸せなときはなく、哀悼の祈りをささげては最良のときにいたりつく。おれたちの最良の音楽、最良の著作はその核に深い悲しみがある。悲しむ理由にはことかかないし、雨は慰めにならない。

 プローナハ。

 この言葉がおれは好きだ。その響きが。字義どおりには“悲しみ”だが、それを一歩超え、人がうちひしがれるところを意味する。

 

 

親友関係の、スティーブとトミーのやり取りの部分が、とても好き。

 

主な登場人物については、過去が語られて、人物像というか、クレイジー具合が明確にされている。

でも、トミーについては、具体的には語られていなかったような。

ただ、家庭環境が悲惨であったとだけで。

ティーブは、トミーのお父さんに、自分が彼を守ると伝えた。

 

守れなかった。

トミーから手を引く方に、気持ちは傾いていった。

 

ティーブの恋人のシモーヌが、トミーに関わることの危険性を語る。

「トミーはドラッグと手を切るんじゃなくて、人生と手を切って、お清め寸前まで行っちゃってんだよ」

 

 

アメリカン・スキン』は、ブルース・スプリングスティーンの歌。

アメリカでの、人種差別を歌った歌。

 

「スキン」には、「偽物」感がある。

最初に語られる、著者の先祖に関わる「スキン」には、呪術感もある。

 

主人公のスティーブの先祖は、かつて、侵略者イギリスから利益を得るためにプロテスタントに「表向き」改宗した「ブレイク一族」。

アイルランドでは、「ブレイク」という苗字は、かつてアイルランドを裏切った一族という認識があるそう。

 

でも、スティーブ一家は、カトリックとして生活してきた。

 

ティーブは、定まらない。

かつてはプロテスタントだけに開かれていた、ダブリンのトリニティ・カレッジに進学する。

イギリス軍に入る。

 

親友のトミーは、スティーブが行く地へ、必ず付いていった。

そして、いろんなものに憧れを抱きながら、薬に溺れていく。

 

ティーブもトミーも、何にもなれない。

 

 

この小説、好きだなぁ。

 

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