『ケルト人の夢』

ケルト人の夢』
マリオ・バルガス=リョサ
野谷文昭 訳
岩波書店


アイルランド独立のための活動を始めたケイスメントは、ドイツに赴く。
蜂起に使用する武器を、ドイツから提供してもらうため。
そして、蜂起の時に、ドイツの陸軍と海軍にイギリスを攻撃してもらうため。

ドイツが約五万丁のライフル銃をアイルランドに)送り、同時にその軍隊が英国領土内で事を起こし、英国海軍によって軍用化されたアイルランドの港を攻撃して反乱軍を支援することが不可欠だ。作戦を同時に行えば(ドイツの攻撃と反乱軍の蜂起)、ことによるとドイツの勝利を決定づけるかもしれない。そうなれば、アイルランドはついに独立し自由になるだろう。

IRBのジョセフ・ブランケットも、ドイツへやって来て、ケイスメントと共に働く。
二人は、イギリスから独立するためには、武力で戦うしかないという点は意見が一致していた。
でも、ドイツの協力無しでも革命を起こすかどうかについては、異なっていた。
ケイスメントは、それは自殺行為で、決して行ってはならないと考えていた。

ブランケットは、ドイツの協力無しでも蜂起は実行すると、ケイスメントに告げる。

「どうやらあなたが飲み込めていないことがあるようです。問題は勝つことではありません。もちろん我々はこの戦いに負けるでしょう。問題は持ちこたえること。抵抗することなのです。何日間も、何週間も。そして我々の死と血が、アイルランド人の愛国心を抗いがたい力に変えるような、そんな死に方をすることです。死んでいく我々一人ひとりから、百人の革命的人間がうまれるのです。これはかつてキリスト教に起こったことではありませんか?」

「兵器や兵士の数に勝る要素をお忘れです。神秘主義ですよ。我々にはそれがあります。イギリス人にはありません」

こんなブランケット達を、ケイスメントは、「いくぶん狂ったロマン主義」と考え、怯えた。
ケイスメント自身、親友から、狂信的な愛国主義者になってしまったと絶縁されているのだけれど。

神秘主義」のところで、『恐ろしい美が生まれている』のイェーツの詩を思い出した。

「おお、言葉は軽く話されるものだ」
とピアスがコノリーに言った。
「たぶん政治言語の生臭さが
われらのバラの樹を枯らしてしまったのさ
それともたぶん苦い海を越えて吹いてくる
ただ一陣の風だったのかな」
「水をやりさえすればよかったのだよ」
とジェイムズ・コノリーが答えた。
「もう一度、青葉を出させ
全面に生い茂らせて、
つぼみから花になるよう揺り動かし
この庭の誇りに返り咲かせるには」

「だがしかし、どこから水を引けばよい」
とピアスはコノリーに言った。
「すべての泉が涸れてしまったというときに?
おお、これほど簡単なことはない
われら自身の紅い血ほど
バラの樹にとってよいものはほかにない」