『青年の環』1・2巻

『青年の環』1・2巻野間宏 結末近くで大道出泉がお酒を飲んだのは、どこだろうか。突然思い出して、気になった。 奈良で奈良漬けで飲んで、大阪に戻って海鼠腸で飲んで、そして最後のシーンへ。 あれは、奈良のどこだったのか、大阪のどこだったのか。奈良は…

『ケルト人の夢』

『ケルト人の夢』マリオ・バルガス=リョサ野谷文昭 訳岩波書店 アイルランド独立のための活動を始めたケイスメントは、ドイツに赴く。蜂起に使用する武器を、ドイツから提供してもらうため。そして、蜂起の時に、ドイツの陸軍と海軍にイギリスを攻撃しても…

『うらめしい絵』

『うらめしい絵 日本美術に見る怨恨の競演』田中圭子誠文堂新光社 甲斐庄楠音の「畜生塚」に描かれた21人の女性の中。その中に、引っ込んで膝を抱えた少女がいる。 著者は、この少女はお伊万の前(駒姫)ではないかと思う。「秀次の首と対面した女たちが悲し…

『恐ろしい美が生まれている アイルランド独立運動と殉教者たち』

『恐ろしい美が生まれている アイルランド独立運動と殉教者たち』ユーリック・オコナー訳 波多野裕造青土社 「恐ろしい」は、血が流れる。「美」は、アイルランド。 多分。 アイルランドは、武力に依らずに、自治を獲得しようとしていた。 そのためには、イ…

『極夜行(きょくやこう)』

『極夜行(きょくやこう)』角幡唯介(かくはたゆうすけ)文藝春秋 2018年 著者が極夜に興味を持った、『世界最悪の旅』というノンフィクション。電池を使う懐中電灯が無かった時代の、極夜の旅。 その紹介箇所を読んでいて、思い出した。夢の中で経験した、…

『ルポ川崎』

『ルポ川崎』磯部涼新潮文庫 少し前に、違う著者による「ルポ」+「地名」の本を読んでいた。その地名は、「歌舞伎町」・「西成」と、地名ではないけれど「路上生活」。今回は、「川崎」。 漠然と、どこも治安があまり良くない感じのところ。でも、読んでいて…

『狂うひと』

『狂うひと』 「死の棘」の妻・島尾ミホ俤久美子新潮文庫 『死の棘』に出てくる電報と、脅迫の紙片。島尾さんの愛人が、島尾家に電報を打ち、島尾家の郵便受けに紙片を入れた。 でも、実際は違うのではないかという意見がある。島尾さんの自作自演ではないか…

『ルポ西成』

『ルポ西成』國友公司彩図社 2018年(文庫は2020年) 「もう疲れたやろ?」 これは、ヒットマンが、(主に)西成の路上で、ターゲットに掛ける言葉。ヒットマンは、貧困ビジネス業者。ターゲットに声を掛け、生活保護申請に手を貸す。 「もう疲れたやろ」に…

『ルポ路上生活』

『ルポ路上生活』國友公司KADOKAWA 2021年 山谷の炊き出しに参加した時のことを、思い出した。 特に一人の青年のこと。 ボランティアだと思っていたら、路上生活をしているのだった。 そうと知って、とても驚いた。見た目は、確実に、誰からも違和感を覚えら…

『ルポ 歌舞伎町』

『ルポ 歌舞伎町』國友公司彩図社 2023年 「東横キッズ」のいる場所って、渋谷だと思っていた。 「東横」と言えば、思い浮かぶのは「東横線」、「東急百貨店東横店」、「東横のれん街」だし。…無くなっちゃったのもあるけれど。 それに、新宿に、「キッズ」…

『炎の爪痕』

『炎の爪痕』アン・クリーヴス玉木亨 訳創元推理文庫 家庭内で暴力にさらされた子供。子供に無関心な親に育てられた子供は、自分で、自分と兄弟を守らねばならない。自己愛の強い母親の面倒を、捨てきることができない子供。 そういった子供たちが出てくる。…

『葬送の庭』

『葬送の庭』タナ・フレンチ安藤由紀子 訳集英社文庫 父親は、誰がやったのか分かったのだろう。だから、フランクに、今すぐに家を出て二度と来るなと言った。母親を、これ以上悲しませないため。 でも本心は、自分の介護をする人がいなくなるからであるよう…

『道化の森』

『道化の森』タナ・フレンチ安藤由紀子 訳集英社文庫 登場人物一覧に、『悪意の森』の主人公ロブの名があったので、読んだ。でも、出てきたのは、ほんの一瞬だった。 『道化の館』の主人公は、『悪意の森』でロブの相棒だったキャシー。今回、ロブの出番は一…

『悪意の森』

『悪意の森』タナ・フレンチ安藤由紀子 訳集英社文庫 寒々とした終わりが、堪らない。 読み始めてしばらくして、最後まで読むのは無理かもと思った。 主人公の一人称語りが五月蠅い。主人公とキャシーの関係が少し気持ち悪い。 でも二人の関係の中にサムが入…

『捜索者』

『捜索者』タナ・フレンチ北野寿美枝 訳ハヤカワ文庫 死因が嘘だったら、カルは、道徳的規範に基づいた行動をしただろう。穴に携帯を落とし、警察に通報し、行政に委ねる。そして、アメリカへ帰る。 カルはトレイに、エチケット、マナー、道徳を教えようとし…

『沈黙の果て』

『沈黙の果て』シャルロッテ・リンク浅井晶子 訳創元文庫 ティムは、診断を誤っていたことになる。 ジェラルディンの今後だけが、曖昧のまま終わる。とりあえずは、フィリップの予想通りになるのだろうか。その後はどうなるのだろう。2人の関係が良い方に行…

『姉妹の家』

『姉妹の家』シャルロッテ・リンク園田みどり 訳集英社文庫 昼メロみたいだった。 解説に、ドイツで2時間ドラマ化されたとあった。2時間では無理だろう。昼メロだったら、毎回、盛り上がりそう。視聴者は、自分の中にある憎しみや妬みを、昇華させる。 優し…

『裏切り』

『裏切り』シャルロッテ・リンク浅井晶子 訳創元推理文庫 主人公の女刑事ケイトは、『失踪者』のエレイン的な部分がある。 女性として、魅力的では無い。人間としても、魅力が無い。自分に自信が無い。 でも、ケイトの「ふいに悟った」のところを読んで、2人…

『失踪者』

『失踪者』シャルロッテ・リンク浅井晶子 訳創元推理文庫 真相が明らかになって終わったけれど…。それが真実かどうかは、分からない。 彼女の死に関わったのは、彼。これは、事実なのだろう。でも、彼女が死に至るまでのことは、「嘘」かもしれない。 主人公…

田山花袋 太田玉茗もの

田山花袋 太田玉茗もの 「縁」 「蒲団」に続く出来事。 花袋の口添えもあって、再び東京に文学修行に出ることが許された女弟子。花袋の養女となり、「蒲団」で花袋の恋敵だった青年との間に子供ができて、駆け落ちして…。 女弟子の赤ちゃんは、玉茗に引き取…

『太田玉茗の足跡』

『太田玉茗の足跡』原山喜亥 編著まつや書房 2013年 『田舎教師』のモデルとなった青年が建福寺に下宿した時、玉茗は30歳だったんだ。もっと年齢がいってるイメージだった。45~50歳くらい…。 青年が、玉茗夫婦が一緒にお風呂に入っているのを見てしまうシー…

田山花袋 羽生もの

田山花袋 羽生ゆかりの小説 羽生市のホームページに紹介されていたので、読んでみた。 「Mの葬式」と「騎兵士官」は、全集に収録されていなかった。『縁』は、読まなかった。 全部に、羽生市にある建福寺の住職、太田玉茗が出てくる。 『妻』(全集の1巻に収…

『再び草の野に』

『再び草の野に』田山花袋大正14年刊 明治36年4月。羽生市に、東武伊勢崎線の「暫定」川俣駅が出来た。明治40年8月。利根川に鉄橋が掛かって、羽生市の川俣駅は役目を終えた。 『再び草の野に』とは、何もない草っぱらに駅が出来て、街が出来たけど、通過駅…

『田舎教師』

『田舎教師』田山花袋明治42年刊 こんなにさみしい小説だったけ。 主人公は、実在した青年。明治37年に、21歳で病死した。 一つのさみしさを乗り越えると、新しいさみしさが待っている。そんな人生だった。 田山花袋は、青年に面識があった。そして、青年が…

『鳥の詩 死の島からの生還』

『鳥の詩 死の島からの生還』 三橋國民 角川ソフィア文庫 平成17年 昭和16年、21歳の時に応召、ニューギニアに派遣。 分隊員40人の中で、生き残った2人のうちの1人。 昭和21年生還。 三橋さんは、沢山の死に立ち会った。 その死に対して、解説にも書いてあっ…

『春泥尼抄』

『春泥尼抄』 今東光 新潮文庫 発端は、河内音頭の盆踊りの夜。 火花のような一瞬のパッションが、教師と児童(!)の間に散った。 先生は、教師を辞め、夢を追って東京の大学に入った。 児童は、口減らしのために尼僧になった。 そして数年後に、再会する。…

『ポリス・アット・ザ・ステーション』

『ポリス・アット・ザ・ステーション』 エイドリアン・マッキンティ 訳 武藤陽生 ハヤカワ・ミステリ文庫 「解説」を読んでいて気が付いた。 「解説」では、歴代ヒロインが紹介されている。 2作目『サイレンズ・イン・ザ・ストリート』のヒロインの名は、エ…

『小説河内風土記 巻之六』

『小説河内風土記 巻之六』 今東光 図書館には、『巻之六』が無い。 古本で探したけれど、『小説河内風土記』自体が無い。 『巻之六』の各作品のタイトルを見ると、面白そう…。 『う』 『鼬』 『隠沼』 『尼僧の子』 『寝腐れ髪』 『しゃも寺』 『浮世の子』…

『小説河内風土記 巻之五』

『小説河内風土記 巻之五』 今東光 『仏心』 どうしても最後に内海桂子師匠の説経が聞こえてくる、尼僧もの。 『毛蟹』 毛蟹に関しては、『お色気大賞』。 さこみちよさんの「ウハハハハハ」という、豪快な笑い声を思い出す。 でも、状況は辛い。 『裸蟲』 …

『小説河内風土記 巻之四』

『小説河内風土記 巻之四』 今東光 『尼講』 またもや内海桂子師匠のお説教を思い出した。 けれど、バカボンのパパの「これでいいのだ」なのかもしれない。 『月下の河内野』 これまで浅吉だったけれど、巻之四で、朝吉になった。 『悪名』の朝吉と違って、…