『悪意の森』

『悪意の森』
タナ・フレンチ
安藤由紀子 訳
集英社文庫

寒々とした終わりが、堪らない。

読み始めてしばらくして、最後まで読むのは無理かもと思った。

主人公の一人称語りが五月蠅い。
主人公とキャシーの関係が少し気持ち悪い。

でも二人の関係の中にサムが入って来て、私にはバランスが良くなった。
主人公が、一人で森に入ったところから、一人称語りについていけるようになった。

最後まで読んで、良かった。

20年前、「森」の中で、何があったのだろうか。
その「森」が消える。
青銅器時代の遺跡は発掘され、当時の文化の解明につながる。
でも、20年前に消えた子供達の痕跡は、事件の解決に繋がらなかった。

主人公は、これからどう生きていくのか。
続編があるといいな。

「汚れた古い町」という言葉があった。
dirty old townだ。
ダブリンから10キロ離れた、架空の町ノックナリー。


…あぁ、分かった。

主人公とキャシーの関係が気持ち悪かったのは、子供同士みたいな関係だったからだ。
そこにサムが加わってバランスが良くなったと感じたのは、主人公の子供時代の、友人の構成と同じになったからだ。

キャシーの部屋は、主人公にとって、子供時代の事件が起きる前の楽しかった「森」のようなものだった。
楽しかった「森」と同じように、楽しかったキャシーの部屋も失った。
ジェイミーとピーターと同じように、キャシーとサムを失った。
前者は奪われたのだけれど。