「エーランド島四部作」
「エーランド島四部作」
ヨハン・テオリン
ハヤカワミステリ文庫とハヤカワポケットミステリー
三角和代 訳
『黄昏に眠る秋』
幼い息子が行方不明になって以降荒れていたユリアが、変わっていく。
つかのまユリアは、無駄にしてきた歳月をずしりと胸にのしかかる圧力のように感じた。いなくなったわが子を想って嘆くことが、子供との楽しい思い出よりもはるかに大切なことになっていた。楽しい思い出は慰めを与えてくれたはずだったのに。悲しみの黒い穴に溺れかけ、人生を逃げていた。
こんな風に捉えることができるようになったのは、人を愛する気持ちが生まれたから。
自分を許し、他者を許し、ちゃんと生きようと思う。
そして、ユリアはイメージする。
あの子は海に対する恐怖を克服して水際の岩場を、小さな男の子ならみんなやるように、跳ねて飛びはじめ、足を滑らせたのだ。
でも、これは憧憬。
その後、ユリアは真実を知り、憧憬は崩れ去った。
真実を導き出したのは、ユリアの父親で、シリーズの主人公イェルロフ。
イェルロフは好奇心が強く、疑問を放置しない性格。
それは、人を救うことでもあり、人を追い詰めることにもなる。
イェルロフは、娘ユリアを救った。
壊れていた家族の絆が、再び繋がる。
物語の最初、イェルロフは、疎遠になっていたユリアに電話をかける。
それは老人ホームからで、イェルロフは、とても老いた感じがする。
でも、問題を解決するために考え、行動することで、気力が戻っていく。
この後、シリーズは、冬、春、夏と続く。
春には、老人ホームを出て、我が家での一人暮らしに戻る。
ユリアに、生きて老人ホームを出る人はいないと呆れられながら。
夏の巻で、イェルロフは、最後の夏だと予感する。
これは、予感で終わった。
夏が終わったら、一人で厳しい冬を越えることは無理なので、老人ホームに戻らねばならない。
…あぁ。
でも、シリーズの最後のシーンで、イェルロフがやっぱりイェルロフらしかったので、良かった。
『冬の灯台が語るとき』の、猛吹雪のクリスマス、ウナギ岬の屋敷のシーンが好き。
屋外の乱闘と、屋内で守られた家族たち。
家族は、亡くなった妻と母に守られたに違いない。
この空気の違いが、生々しい。
『赤く微笑む春』
石工の一家が、悲しい。
彼女は、これから幸せでありますように。
『夏に凍える舟』
レードトルプの一家が、悲しい。
彼女は、これから幸せでありますように。
この巻のストーリーとは関係ないけれど、ある男性が、イェルロフを訪ねる。
このシーンも良かったな。
彼にも、幸せになって欲しい。