『秋の寺日記』

『秋の寺日記』
原山喜亥(きがい)編
北溟社 2002年4月6日発行

田山花袋の「Mの葬式」が収録された本を見つけて、嬉しかったのだけれど…。
Mとは、太田玉茗のことだった。

享年55歳。
糖尿病で療養していた、小田原の海浜病院で亡くなった。

花袋と玉茗は、同じ明治4年生まれ。
19歳の時に知り合った。

もう一篇収録された「秋の寺日記」を読むと分かるように、二人は本当に仲が良かった。
「Mの葬式」で、花袋は、玉茗が住職を務めるこの建福寺を「隠れ家」と呼んでいる。
それは、ちょっと「癒し」のニュアンス。

本当に気を許せる友と、癒しの場と。
一度に二つのものを失った。


「宇之が舟」
初めて読んだ、玉茗の作品。
お婆さんが、亡くなった孫の霊を、蓮の葉の舟に乗せて送る内容の詩。

 兒らは叫びぬ其舟は
 宇之が舟なり其舟は
 宇之が舟なり石投げな、
 土くれ投げな沈むるな。

 舟を沈めむものあらば、
 打てや打てやと子供らは、
 水のまにまに流れゆく
 蓮の葉舟を追ひ行きぬ。


    或は岸をはしりつゝ、
 あるひは水を渡りつゝ、
    守りて行きし子供らの
 姿は見えずなりにけり。

この、子供たちが見えなくなるシーン好き。
長沢芦雪の「唐子琴棋書画面屏風」の、子供たちが消えていく感じと同じような。
謡曲みたいな感じもする。