『太田玉茗の足跡』

『太田玉茗の足跡』
原山喜亥 編著
まつや書房 2013年

田舎教師』のモデルとなった青年が建福寺に下宿した時、玉茗は30歳だったんだ。
もっと年齢がいってるイメージだった。
45~50歳くらい…。

青年が、玉茗夫婦が一緒にお風呂に入っているのを見てしまうシーンがある。
長年連れ添った夫婦をイメージしていたけど、違った。

青年が下宿開始したのが5月。
玉茗が婚姻届けを出したのが、同年11月。

新婚さんだった。

入浴シーンの味わいが変わってくる。


姪を心配する詩がある。
もう一人の叔父である花袋の小説「白い鳥」は、ある程度真実みたい。

姪は結核で、海の近くに転地療養して、そこで亡くなる設定。
どこの海かは書いていない。

玉茗は糖尿病で、海の近くに転地療養して、そこで亡くなった。
小田原の海。


「Mの葬式」の中で、花袋は、晩年の玉茗について書いていた。
宗派の組織の仕事がストレスで、命を縮めたという感じのこと。

年譜を見ると、50歳以降の出来事は、何の役員になったかの記載だけ。


玉茗の小説を読んでみたいなぁ。

 

 

説経節政大夫

2022年10月27日(木)
日暮里サニーホール コンサートサロン
説経節政大夫独演会

説経節 小栗判官一代記」
のぞきからくりの口上にて。

説経「をくり」(遠藤琢郎 構成・演出)
「をくり」巻5
  堕地獄の段
  餓鬼阿弥の段
  車曳きの段

照手が狂人を装って、車を曳き始めるシーンをまた聴けて、嬉しい。
政大夫さんの照手の、「ものに狂うてみしょうぞ」、大好き。

前はもっと可憐だった気がするけれど、今回は強さを感じた。

別れの時に、照手が小栗の胸札に、願いを書く。
政大夫さんの語りが、実際に想いをしたためているみたい。
結末は知っているのだけれど、願いが叶いますようにと切なくなる。

病本復するならば、かならず、下向には、一夜の宿を参らすべし。かえすがえす」に、ウルっとする。

餓鬼阿弥の段までは、目を閉じて聴いていた。
三味線の音、声、節が全部、とても気持ち良い。

次の政大夫さんは、平日の18時。
なんでそんな時間?
萩原朔太郎の詩を説経節にするって、どんなかとても聴きたいが…。

政大夫さんの他の説経節も、もっと聴きたい。

 

 

 

『秋の寺日記』

『秋の寺日記』
原山喜亥(きがい)編
北溟社 2002年4月6日発行

田山花袋の「Mの葬式」が収録された本を見つけて、嬉しかったのだけれど…。
Mとは、太田玉茗のことだった。

享年55歳。
糖尿病で療養していた、小田原の海浜病院で亡くなった。

花袋と玉茗は、同じ明治4年生まれ。
19歳の時に知り合った。

もう一篇収録された「秋の寺日記」を読むと分かるように、二人は本当に仲が良かった。
「Mの葬式」で、花袋は、玉茗が住職を務めるこの建福寺を「隠れ家」と呼んでいる。
それは、ちょっと「癒し」のニュアンス。

本当に気を許せる友と、癒しの場と。
一度に二つのものを失った。


「宇之が舟」
初めて読んだ、玉茗の作品。
お婆さんが、亡くなった孫の霊を、蓮の葉の舟に乗せて送る内容の詩。

 兒らは叫びぬ其舟は
 宇之が舟なり其舟は
 宇之が舟なり石投げな、
 土くれ投げな沈むるな。

 舟を沈めむものあらば、
 打てや打てやと子供らは、
 水のまにまに流れゆく
 蓮の葉舟を追ひ行きぬ。


    或は岸をはしりつゝ、
 あるひは水を渡りつゝ、
    守りて行きし子供らの
 姿は見えずなりにけり。

この、子供たちが見えなくなるシーン好き。
長沢芦雪の「唐子琴棋書画面屏風」の、子供たちが消えていく感じと同じような。
謡曲みたいな感じもする。

 

 

AZUMI

2022年10月18日(火)
入谷 なってるハウス
AZUMI

「捨てられた古いビデオデッキ♪」って、VHS用かな、ベータ用かな?
突然、変なところが引っ掛かった。

それが、「風のように時は過ぎてゆく♪」に繋がって、「ほこり」を思い出していた。


「home」、「播州平野」、「good afternoon blues」、「good night 大阪」。
どの歌にも、AZUMIさんのリアルな時間があるんだな。

それが、奇跡という感慨に繋がっていくような。

歌おうとして、歌われなかったのは、何だったんだろう。
その歌に繋がったという出来事は知らなくてもいいけれど(知りたいけれど)、タイトルだけ聞いておけばよかった。

「そこにあるところ」の「君(きみ)」が、AZUMIさん自身のように思えた。


天王寺」の歌の後の長いギターの演奏が素敵。


「お茶碗」。
机の引き出しにしまって、そのまま忘れていた「何か」を見つけて、浸るような。
美しい音。


「説法」。
朝吉親分と貞のやり取りの時の、ギターの六弦を押さえた音が、不安。
一音で不安を覚えさせる音って、音階で言うと、何?


雨がショボショボ降る帰り道。

「出会う」って、川と川が出会うのか、川と海が出会うのか…。
どっちの意味だったんだろう。

川と川が出会うって、こんな感じ?
常吉さんに出会って、AZUMIさんが「石」を歌い、優作さんが「石」を歌い、なってるバンドが「石」を歌い、夜久さんが「石」を歌う。

川と海が出会う場合は、こんな?
常吉さんという海に、AZUMIさんの「石」が、優作さんの「石」が、なってるバンドの「石」が、夜久さんの「石」が、川として流れ込むのか。

海に流れ込み、進み続けると、陸地に上がるはず。
そこは、どんなところ?
流れ込み、流れ続けた者しか分からない世界。


『幻植物園』という写真集があった。
廃墟感。
植物園って、こういう感じだったけ?
家の近所の水辺の写真を目にすることがあるけれど、それは美しい。
嘘っぽいぐらいに。
この写真家さんの目で撮ったら、そこも廃墟になるのかな。
もしかしたら、そっちの写真の方が実感できたりして。

 

 

AZUMI

2022年10月15日(土)
バレルハウス
AZUMI

山伏公園では、アルコールも、屋台から香る焼きそばの誘惑も我慢した。
バレルの、生ビールの美味しいこと。

不思議と、ハウリングが多発した。
でも、ギターの音とAZUMIさんの声と、全体に包まれる感があった。

心地良い、酔いの中。
なんか、時々、一緒に歌っていたよ。

「home」、「天王寺」、「播州平野」の並び。
今までとは、なんとなく、淡く違う感じ。
広がっていくのかな。
思いもしない所へ運ばれるのかな。

楽しみ。

 

 

なってるバンド、夜久一

2022年10月15日(土)
北二フェス(北上野二丁目町会)

なってるバンド

なってるバンドの「石」は、チンドン感。
大正? 昭和の戦前?
輸入もののような、モダン感。

夜久一

観に来ていた人と、お喋りした。
「夜久さん、何やるのかなぁ」と。
絶対にこれはやらないだろうと、「深い河」と言ってみた。
「まさかね」と笑いあった。

なんと、夜久さん、やった。

一曲目、「夕暮れの風が♪」って歌い始めて、あぁコレがあったかと思った。
ちょうど、暮れ始めた空気がいい感じだった。

それから、「星めぐりの歌」。

そして、驚きの「深い河」。

これはやると思ったの「チャイナ・ガール」。

最前列のシート席には、次の「忍者ショー」目当てのチビッ子達がどんどん集まってきていた。

そして、「ムーンウォーク」からの「新しい季節」。
「新しい季節」は大人の恋愛の歌だと思っているので、チビッ子達との組み合わせがシュールだった。

ステージの背後の紅白幕が、夜久さんに、全然そぐわってなかった。
でも、客側から見て夜久さんの右側の、下町の不揃いに建て並ぶビルの向こうに暮れていく、雲の多い空は、とてもいい感じだった。

いつか、野外で、夜久さんの音楽に浸れますように。
できたら、真昼間ではなく、夕暮れ以降がいいな。
薪の爆ぜる音が聞こえるような環境だともっと嬉しい。
この間の橋の下の、AZUMIさんのライブと虫のすだきの組み合わせは素敵だった。
虫のすだきの向こうには、まだ楽しむ人たちのざわめきがあって…。
お尻は痛かったけれど。

 

 

 

田山花袋 羽生もの

田山花袋 羽生ゆかりの小説

羽生市のホームページに紹介されていたので、読んでみた。

「Mの葬式」と「騎兵士官」は、全集に収録されていなかった。
『縁』は、読まなかった。

全部に、羽生市にある建福寺の住職、太田玉茗が出てくる。

『妻』(全集の1巻に収録)
『蒲団』の前段階の話し。
田山花袋の人間関係を把握できた。
花袋は、友人である太田玉茗の妹さんと結婚。
太田玉茗は、建福寺の住職になる。

「おし灸」(1巻に収録)
旅の灸師が、羽生にやってくる。
玉茗は、治療と宿泊のために、本堂を貸す。

「幼きもの」(2巻)
『蒲団』の女弟子が、花袋の恋敵の男性との間に授かった子を、玉茗が養女にする。

「雨風の夜」(5巻)
玉茗のもとに、祟りを絶ちたいと、100年前に亡くなった曾祖母の供養を依頼する男が訪ねてくる。
その夜、玉茗は、街の料亭に買われてきたばかりの、16歳の酌婦の埋葬を行う。

この作品、とても好き。

「籾がら」(6巻)
玉茗と奥さんと、何十年ぶりかの籾摺りをする。
何十年ぶりかで、籾殻を燃やす匂いを嗅ぐ。
養父であった先代の住職のお嬢さんとの初恋を思い出す。

「ボールドに書いた字」(6巻)
小学校の改装工事中、建福寺が、2年生と4年生の教室になった。
休みの日、東京から遊びに来ていた玉茗の友人が、黒板に、「Wine, Women and Song」と書く。

『春潮』(14巻)
一人の女性を巡る、二人の男性。
女性は、秘めていたけれどずっと好きだった方の男性に告白して、振られる。
そして、好きになれない方の男性と結婚する。
数年後、その男性二人が、建福寺で邂逅する。

『白い鳥』(17巻)
赤ん坊を連れて、男から逃げてきた姪を、玉茗は寺に預かる。
そして、里親を探す。

『小さな廃墟』(22巻)
花袋と玉茗が、廃駅になった後の川俣駅周辺を歩くシーンがある。


玉茗って、とてもいい人。

花袋のもう一人の友人、柳田国男は、『蒲団』を受け入れられなくて、離れていった。
玉茗は、自分の妹の旦那の告白『蒲団』をどう受け入れたんだろうか。
『縁』を読むと分かるのか…。

『妻』を読むと、柳田国男は、悲恋(?)を経験したことが分かる。
「春潮」と「白い鳥」には、柳田国男的な人物が出てくる。
柳田国男が失った愛は、実際はどういうものだったのだろう。