『道化の森』

『道化の森』
タナ・フレンチ
安藤由紀子 訳
集英社文庫

登場人物一覧に、『悪意の森』の主人公ロブの名があったので、読んだ。
でも、出てきたのは、ほんの一瞬だった。

『道化の館』の主人公は、『悪意の森』でロブの相棒だったキャシー。
今回、ロブの出番は一瞬だったけれど、何度となくキャシーはロブを思い出す。
主に、潜入先の共同生活の中で。

その共同生活は、自分たちだけで満たされる、孤立した世界。
かつて、キャシーとロブがいた世界。

キャシーが、ロブのことをそんなに引きずっていたとは思わなかった。
そして、一線を越えてしまった後、ロブは何故あんなに強くキャシーを拒絶するようになったのかが不思議に思えてきた。
何故、話し合うことも拒んだのか。

もし『悪意の森』を再読することがあったら、ロブの断固とした拒絶の意味を分かりたい。

 

潜入先の共同生活の掟は、「過去は無し」。
でもダニエル以外の同居人の過去は、少しは記述されていたような。

読後、ダニエルの過去については、何も思い出せない。
両親が亡くなっていることは書いてあった。

では、何歳の時に両親は亡くなったのか。
何故亡くなったのか。
両親が亡くなってから、どのような生活だったのか。

事件解決後にキャシーを訪れた、フランクの言葉が気になる。
ダニエルには、罪を犯した過去があるのだろうか。

 

 

夜久一

2023年3月15日(水)
亀有 KIDBOX
夜久一

夜久さん体験は、ライブが最初だった。
2015年の高山パラダイス。
のろしレコードは、3人とも良かった。
夜久さんの歌はストレートな感じがした、記憶。
ソロアルバムを聴いて、歌詞が素敵だと思った。
それから、歌う声がストレートなだけではなくなったように感じた。
それからエレキを弾くようになって、ワクワクが増した。

最初は、コントロールノブ(?)だけの使用だったような。
それから、足元にエフェクターは現れて…。

去年の冬、「ひかりのうま」に行った時に、6個になっていた。

一曲の豊かさ、美しさ。

 

「僕は帰ろう」
南相馬区原町の景色を思い出した。
いくつかの手作りの小さな祭壇。
あちこちでクルクル回る風車。
空を泳ぐ鯉のぼり。
穏やかな海。
砂浜の茶碗のかけら。
慰霊碑の最初の一文。

 

『悪意の森』

『悪意の森』
タナ・フレンチ
安藤由紀子 訳
集英社文庫

寒々とした終わりが、堪らない。

読み始めてしばらくして、最後まで読むのは無理かもと思った。

主人公の一人称語りが五月蠅い。
主人公とキャシーの関係が少し気持ち悪い。

でも二人の関係の中にサムが入って来て、私にはバランスが良くなった。
主人公が、一人で森に入ったところから、一人称語りについていけるようになった。

最後まで読んで、良かった。

20年前、「森」の中で、何があったのだろうか。
その「森」が消える。
青銅器時代の遺跡は発掘され、当時の文化の解明につながる。
でも、20年前に消えた子供達の痕跡は、事件の解決に繋がらなかった。

主人公は、これからどう生きていくのか。
続編があるといいな。

「汚れた古い町」という言葉があった。
dirty old townだ。
ダブリンから10キロ離れた、架空の町ノックナリー。


…あぁ、分かった。

主人公とキャシーの関係が気持ち悪かったのは、子供同士みたいな関係だったからだ。
そこにサムが加わってバランスが良くなったと感じたのは、主人公の子供時代の、友人の構成と同じになったからだ。

キャシーの部屋は、主人公にとって、子供時代の事件が起きる前の楽しかった「森」のようなものだった。
楽しかった「森」と同じように、楽しかったキャシーの部屋も失った。
ジェイミーとピーターと同じように、キャシーとサムを失った。
前者は奪われたのだけれど。

 

『捜索者』

『捜索者』
タナ・フレンチ
北野寿美枝 訳
ハヤカワ文庫

死因が嘘だったら、カルは、道徳的規範に基づいた行動をしただろう。
穴に携帯を落とし、警察に通報し、行政に委ねる。
そして、アメリカへ帰る。

カルはトレイに、エチケット、マナー、道徳を教えようとした。
道徳的規範について考え、それに沿って行動することを教えようとした。

でもカル自身、アメリカで刑事だった時に、その虚しさを感じてもいた。
自分のそれは、妻のそれとずれていた。

もう刑事ではないから、刑事としての正しさに縛られることは無い。
娘の成長は、父親としての自信を取り戻させてくれた。
そして、娘の言葉に、新しい規範を見つけた。

カルはこれから、村の共同体に馴染んでいくのだろうか。
秘密の共有という繋がりはどうなっていくのか。

カルが移り住んだ、アイルランドの自然の描写が、素敵。
でも、登場する村人達はちょっと不気味。

 

「The beginning of the end」

2023年3月5日(日)
新宿2丁目 ラバンテリア
「The beginning of the end」
永山愛樹、バラッドショット、男身燻(DJ)

マスクを外して、ビール瓶掲げて、乾杯したかった。
永山さんの乾杯。
バラッドショットの、ミチロウさんの乾杯。

色んな「dirty old town」がある。
橋の下で、夢を詰めたビニール袋。
錆びついたぼろい町。

開場を待つ間、どうやってこの人数を収容するのと思っていた。
オールスタンディングライブだった。

何年ぶりだろうかの、オールスタンディングライブ。
こういう、ハコみたいな熱気も久しぶり。

楽しかった。

ライブ終了と同時に、「水戸黄門」の主題歌が流れて、可笑しかった。
人生、楽ありゃ苦もあるさ。

歩いた時の足の痛みがほとんどなくなったので、ライブ前に、少し新宿を歩いた。
あぁ、歩くのって好き。

橋の下音楽祭は、遊牧化していくそう。
本拠地があるから、出張ではないかと思ったけれど…。
「祭り」を育てていくために移動するから、「遊牧」なのかな。
牧畜は、草と水を求めて移動する。
「祭り」は、人との繋がりを求めて移動するのかな。

 

『沈黙の果て』

『沈黙の果て』
シャルロッテ・リンク
浅井晶子 訳
創元文庫

ティムは、診断を誤っていたことになる。

ジェラルディンの今後だけが、曖昧のまま終わる。
とりあえずは、フィリップの予想通りになるのだろうか。
その後はどうなるのだろう。
2人の関係が良い方に行くことを願うけど…。
フィリップは、自分が作り出した闇から抜け出た。
でも、ジェラルディンには、暗い気持ちの誕生を感じる。
ティムがジェラルディンを観察したら、どう分析しただろう。


あなたが最高の共犯者だったからよ

助けを拒絶する人間を、どうやって助けろっていうんだよ

結局は僕だって、ひとりでなんとかしようとがんばるしかなかった。そう、誰もがそうやって生きていくしかないんだ

罪の意識は人を悩ませるばかりで、誰にも何ももたらさない

人間って、責任を逃れようとするときは、結局いつでも何かをでっちあげるんだ

 

 

『姉妹の家』

『姉妹の家』
シャルロッテ・リンク
園田みどり 訳
集英社文庫

昼メロみたいだった。

解説に、ドイツで2時間ドラマ化されたとあった。
2時間では無理だろう。
昼メロだったら、毎回、盛り上がりそう。
視聴者は、自分の中にある憎しみや妬みを、昇華させる。

優しさの欠片も無い物語なのに、カバーイラストは乙女チックで優しい。
このカバーイラストに惹かれて読んだ人は、ドン引きだろう。


この方の作品の登場人物には、パターンがある。
自己肯定が低い人。依存症の人。虐待する男と、そんな男から離れられない女。自分が安らげる家庭を求める夫と、外でキャリアを積みたい妻。

登場人物が生活する狭い世界が、いくつか重なることによって、各人が抱えていた闇が明らかになっていく感じ。